2013年6月17日月曜日

日本は子育ての人的コストがすごく高いんじゃないだろうか?

一週間のバルセロナ出張を終えて、渋々ながら日本に帰ってきました。バルセロナにいると人が楽しそうな雰囲気を発しているので「ここに生きてるだけで楽しい」と思えるのですよ。日本でそういう楽しそうな雰囲気を発してるのって、僕の住んでる街だと中南米系の日系人だけなんですね。10か月前に日本に帰ってきたときも、「日本人ってオシャレで細くて白いけど、楽しそうな雰囲気を発してない」と思ったのを覚えてます。あの頃は駅前にいるブラジル系の日系人に無理やりスペイン語で話しかけたくなったものでした。

さておき。今回は日本とスペインの子育て事情の違いについて、子育て経験も無いくせにちょっと考えてみようと思います。というのも、安倍晋三が「女性人材の活用」のために「育休を3年に増やす」とか「待機児童ゼロ」とか言ってるのを見て、そんな簡単な問題かな?と思ったのですよ。
とりあえず僕が分かる範囲でスペインという国と比較してみると。スペインという国は日本に比べれば少なくとも子供を育てながら働いている女性の割合は高いです。夫婦共働きというのがほぼ当たり前になっています。
この背景には、子育てをサポートする環境(保育園など)も勿論あるでしょう。そして、雇用が日本よりフレキシブル(みんな契約社員みたいなもので、その契約内容が個々人の事情に合わせて異なる)なのが日本と違うと思います。例えば「子供がまだ小さいから8時から2時(スペインの昼休み)まで働く」とかいうことができちゃうんです。勿論その分、雇う側の労務管理のコストは高くなるんですが、それくらいしないと女性が働くのが当たり前の社会って実現できないんじゃないかと思います。あと、終わる時間がきっちりしているので、「できたところまででいいことにする」というのも育児と仕事を両立しやすい要因かもしれません。
スペイン人の体力が日本人と比べ物にならないくらい強靭だということも大きく違うと思います。スペインで出産した日本人の女性が、産後数週間くらいの時期に姑から「もう回復しただろうから、庭に杭を打つ作業をやって」と言われて、言われた通りやってたら倒れたという話を聞いたことがあります。たぶんこれ、姑が意地悪なんじゃなくてスペイン人の体力が日本人と比べ物にならないくらい強靭だということを物語ってるんじゃないかと思います。実際のところ、朝までパーティーしてても次の日一応職場に来る(まぁ流してるんですけど)とか、そういうところをみてると日本人とは根本的な体力が違うと思います。

しかし何よりも子育てにかかる人的コストがスペインとは比べ物にならないくらい日本は高いんじゃないかと思うのです。日本に帰ってきてから不思議に思うようになったことの一つに、子供が飲食店などで大声でわめきながら走り回ったりしているのを親がそれなりに注意しつつも結局好きにさせてるということがあります。これはスペインではちょっと考えられません。そもそも、そういうった公共の場に小さな子供を連れて行く習慣がスペインにはなかったり、連れてきたとしてもちゃんと子供がお行儀よくしていることが多いのです。
どうしても必要なのであえて脱線しますが、同じことは犬にも言えます。僕がかつて住んでいたバルセロナという街ではほとんどの人が集合住宅に住んでるにも関わらず、当たり前のように犬を飼っています。日本人の感覚からすると集合住宅で犬を飼うなんて近所迷惑だと思うかもしれませんが、そうでもないんです。だって犬がほとんど吠えないから。彼らの世界では、犬というのはちゃんと躾された犬をペットショップで買ってくるのが普通なので、勝手に吠えるような犬は飼い犬として存在しえないのです。稀に飼い犬が言うこと聞かずに暴れてるときがあるのですが、そんなとき飼い主は何の躊躇もなく犬をボコボコに蹴ります。
つまるところ何って、"大人=人間の世界" >>>> (越えられない壁) >>>> "飼いならされた動物=家畜の世界" >  "野生動物の世界" というのが彼らの自然・文明観の根本にはあるように思えるのです。で、人間と共生を許されるのは家畜までなんです(その家畜さえ人間との間にも大きな断裂があります)。このヒエラルキーの中で赤ちゃんは生まれたときは"野生動物"で、これをまず"家畜"レベルに育てて"大人=人間の世界"に対して害の無い存在にして、そこから"大人=人間の世界"の成員にしてあげることが親の義務だと彼らは考えているようなのです。
だから日本の子供のように公共の場でわめきながら走り回ったりして大人の迷惑になるような行為をスペイン人の親は割と徹底して許さない傾向があると思います。こういう場合、スペイン人の親はまず”人間レベル”として「何がどう迷惑か」をちゃんと論理だてて説明して理解させようとする印象があります。で、それでも言うことを聞かない(=家畜以下レベルと見做す)と結構本気でお尻を叩いて戒めたりします。この段階での対応は飼い犬が暴れてるのをボコボコに蹴ってるのと基本はあんまり変わらないんじゃないかと思います。勿論相手は人間の、しかも我が子なんでそこは大きく違うんでしょうけどね。
こういった傾向は子供の寝かせ方にも反映されていまして。スペインでは"duermete niño(ひとりで寝なさい)"という育児メソッドがあります。これ、とにかく子供はお母さんと離されて一人で寝かせるんだそうです(これがどこまで普通なのかはわかりませんが僕の認識ではスペインでは結構普通なんだと思ってます)。どんなにぐずっても基本ほっとくんだそうです。このメソッドで育てると夜鳴きせずよく寝るとか、割と早い段階から分別のついた子供に育つとか、色々効用はあるそうです。もちろんこの育児法には賛否両論あるんだそうですが、少なくとも日本ではちょっと実践するのが難しいだろうと思います。

スペインで子育てをしている日本人のお母さんみんなが僕に同意するかは分かりませんが、僕から見たスペインという国の育児事情は上記の通りで。僕から見るとスペインでは「子供の世界」というのが明確に存在せず、子供は"大人=人間"の世界の成員へ至る過渡状態にあると考えられてるように思えます。そしてスペインというか、カトリックの国はまだ欧米(例によってこの言い方好きじゃないんですけど)の中では子供に甘い方だと僕は思います(この話はいずれ、「マザコン国家はメシがウマい」というタイトルで書こうと思ってます。)。"大人=人間の世界"の都合に合わせてる限りはスペイン人の方が日本人より子供に対して甘いとさえ僕は思いますし。
一方我が日本について。また例によって「菊と刀」の受け売りですが、「日本人は『イノセントな存在』として無邪気に振る舞えた幼少期と、それ以後の『恥を知る』大人としての時期とで明確な断裂があり、大人になった後も楽しかった幼少期の記憶をいつまでも持っている。日本人が2,3杯サケを飲むと途端に子供のように幼稚になってしまうのはそのためである」。なんだそうです(私見ですが、これは「菊と刀」が書かれた60年前の話であって、今の日本では大人と子供の断裂さえも希薄になってきているような気がするのですが。これについて書いてるとまた長くなるので後日)。同意できるようなできないような微妙なところですが、結構鋭いことを言ってるように僕は思います。
結局のところどうって、例によってどっちがいいとかは抜きにして育児に際して子供に対してかける手間が日本とスペインでは大きく異なっています。日本では子供が大人の都合に合わせることを求められないので、常に走り回ってる子供に気を配ったり、夜泣きする子供をなだめたり、子供のワガママにつきあったりする必要がある分だけ育児コストが高いんじゃないかと思うのです。こういう文化・風習である以上、育休を1年延ばしたり保育所を充実させるくらいで本当に日本が女性に働きやすい国になるのかはちょっと疑問なのですよ。しかも上述したように、なんだかんだで「年功序列、終身雇用」を前提としたシステムに働く側が合わせることを求められる日本では、尚のこと育児と仕事を両立するなんて大変なんじゃないかと思うのです。

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